月刊ロジスティクスビジネス2015年4月号掲載  運賃市場のトレンドを読む

 「物流会社が荷主を選ぶ局面に入った」

ロジSP石橋岳人のインタビュー記事が掲載されました。

深刻なドライバー不足で荷役を伴う仕事が敬遠されている。物流会社が荷主企業を選ぶ局面に入ってきた。人出不足は早期の解消が期待できないだけに今後運賃相場が大幅に下落するとは考えにくい。荷主企業は物流会社と連携して物流の効率化とサービスレベル見直しをうまく進められるかどうかが問われている。

「物流会社が荷主を選ぶ局面に入った」

運賃上昇は地方にも波及へ
―今回のトラック実勢運賃調査の結果についてどう感じますか?
「総じて見ればあらためて上昇基調を確認できといえるのではないでしょうか。例えば、特積み(路線便)は平成2年(1990年)タリフを採用している場合が前回の2014年調査より上がりました。平成6年(94年)や平成11年(99年)のタリフの割合は下がっていますが、全体的には、昔の安い運賃体系を使っていたところが平成2年のタリフに移ってきたのが大きいとみています」「時間制に関しても上がっていると思います。東京は平ボディーの車が足りない状況が続いています。多くの物流会社がトラックを平ボディーからより用途の広い箱車に切り替えてきましたが、東日本大震災の復興需要に加え、20年の東京五輪に向けたインフラ整備で建築資材の運搬需要が高まっていることもあり、平ボディーのニーズが増えているためです。距離制は幹線輸送を手掛ける会社が減っていますから、10トン、15トンあたりの運賃がもう少し上昇していても不思議ではないと思えます」「ただ、歴史のある業界、例えば素材系メーカーなどは物流会社との付き合いが長いことなども影響しているのか、それほど上昇しているようには感じられません。一方、卸・小売業は特に運賃が上がっているという印象です」
―昨年は年末や年度末にトラックが十分確保できなかった荷主企業が続出しました。今年も3月末は同様の状況になりそうでしょうか。
「物流会社は今まで、あらかじめ必要といっておいてもらわないと車は準備できないとアナウンスしていて、荷主サイドはああ分かったと言いつつ、それでも何とか乗り切れていました。しかし、今は物流会社がそう伝えてきたら本当に備えないと物が運べなくなる。それだけトラック不足が切迫した状況になっているといえます。年度末を控え、多くの企業は必要になるかどうか分からなくても、とりあえずトラックを確保しようと動いています」
―ここ1年ほどの運送市場をどう総括しますか。
「トラック不足が続く関東圏では、業種によっては荷主が物流会社を選ぶのではなく、物流会社が荷主を選んでいる局面に入ってきています。手積み手降ろしを伴う案件は、荷主側が相場を上回る運賃を支払うといっても、物流会社の方が断っている。荷役のある仕事を取るとドライバーが嫌がって辞めてしまうから、というのが理由です」
―関東以外の都市部や地方は?
「大阪や名古屋は今のところ関東ほどの明確な動きにはなっていない気がしますが、いずれ波及していくでしょう。地方は物流会社の数自体が減少していますので、いろんな仕事が結果的に同じ物流会社のところへ持ち込まれています。運べる量は決まっていますから仕事が選別される。このまま行けば地方も明らかに運賃上昇の方向にならざるを得ないでしょう」「物流会社が事業に取り組む姿勢は二極化しています。ドライバーがつかまらなくてトラックを減らそうとする動きがある一方、現下の状況をチャンスと捉え、どんどん車を増やそうとしている企業が存在しているのも事実です。現状では運賃をこれ以上安くするのは無理です。その代わり業務の内容をこのように変えて効率化すれば下げることは可能ですよ、と荷主に提案し、理解を得られるような物流会社は増車に積極的です」「単価交渉が可能になったことで、物流会社によっては無茶をしなくても利益を確保できるようになっています。以前は時間が余ればその分、別な仕事を入れて稼働率を上げないとトータルで利益が出なかった。しかし、今はドライバーにもう1便行ってくれとお願いしたら、そんなしんどい仕事はできない、辞めますと言われてしまう。トラックがつかまらない背景には、物流会社が車の台数は同じでも回転を減らしているということもあるかもしれません」

荷主が物流効率化を真剣に考える時期
―荷主サイドの意識は変わってきていますか。
「JILS(日本ロジスティクスシステム協会)による荷主企業の物流コスト比率の調査を見ても、10~20年ぐらい前は支払物流費と自家物流費の割合が半々ぐらいでした。今は支払物流費が9割を超えている。同じくJILSの物流技術管理士の資格認定講座も、10年前は荷主企業からの参加者の方が多かったのですが、今は7割が物流会社の方々です。物流はプロに任せるのが普通になった」「『見えない物流費(自家物流費)』がほぼなくなったため、一部の企業は自分たちが物流のことを理解しなくてもいいのではないか、とさえ考えているきらいがある。そうなると、あまり物流の現場を知らない人たちがとにかく安くしろと求める動きが出てくる。実際、現在のような状況でもさらに運賃を下げようとしているところがあります」「自分たちが物流を理解しなくてもいい、と言いましたが、特定の部分を知っているという側面もあります。帰り便の運賃をみんなが知るようになってきた。その数字が独り歩きをしてしまい、行きもその数字がベースとなってきた。行きでも帰り便と同水準の運賃だったら絶対に走りたくないと思うでしょう。長距離のトラックが足りないといわれているのはそういう事情が影響して、路線業者がシビアになってきているのかもしれません」「しかし本当に運賃を値上げしなければ物流会社が立ちゆかないことが分かってきたので、どうやったら今のコストで物流サービスを維持できるのか、サービスレベルの見直しを真面目に考えるところが出てきているのも事実です。他社よりも3分の1、3分の2のコストでサービスを提供できますというのはやはりどこかで無理をしている」
―運賃が再び下落基調に転じる要素はなかなか見当たりません。
「仮に運賃が下がるとすれば、荷主が運賃上昇局面を迎えたのを契機に、真面目に物流改善を考えるようになることでしょう。営業など荷主企業のいろいろな部署を巻き込んで、物流会社と荷主が協力してロジスティクス全体の運用を見直してコストを下げよう、という話になってきています」「例えば、ドラッグストアに毎日商品を持ってきてくれるとか、午前中に全店舗回ってほしいといった要望が出る。そんな高いサービスレベルを提供しながら物流のコストを大きく下げるのは至難の業です。3日にする代わりに、コストも安くできないか、といったように、店舗に迷惑を掛けずにローコストでできるサービス内容を荷主と物流企業が一生懸命に考える。そのような動きが根付いていけば、物流会社は運賃が下がっても収益が確保できるわけですから、歓迎すべき動きになります。明らかに日本の物流は良くなっていくでしょう」